「一般の企業で、ビットコインを資産として保有している会社があるって本当?」
「なぜ、企業はわざわざ価格変動の激しい仮想通貨を保有するの?」
かつては一部の個人投資家や技術者のものと見なされていた仮想通貨。しかし近年、その状況は大きく変わり、名だたる上場企業が自社のバランスシート(貸借対照表)に、資産としてビットコインなどの仮想通貨を計上する動きが広がっています。
企業のこのような動向は、仮想通貨が新しい資産クラスとして社会的に認知されつつあることを示す、非常に重要なサインです。
この記事では、なぜ企業が仮想通貨を保有するのか、その戦略的な理由から、実際に大量のビットコインを保有している代表的な海外の上場企業、そしてこれらの企業に投資する際の視点までを、分かりやすく解説します。
なぜ、今「企業」が仮想通貨を保有するのか?
上場企業が、株主から預かった大切な資金の一部を使って、価格変動の激しい仮想通貨を保有するには、明確な戦略的理由があります。
- インフレヘッジ(価値の保存手段)として:
法定通貨は、中央銀行の金融政策によって、その価値が時間とともに目減りするインフレのリスクを常に抱えています。これに対し、発行上限が定められているビットコインは、長期的に価値を保存するための「デジタルゴールド」のような役割を果たすのではないか、と考える企業が登場しました。 - Web3事業への戦略的投資として:
将来的に自社でNFTやメタバースといったWeb3関連の事業を展開することを見据え、そのエコシステムの基軸通貨となる仮想通貨を、先行投資として保有するケースです。 - 決済手段としての活用を見据えて:
将来、仮想通貨による支払いが一般的になることを見越し、その準備段階として資産の一部を保有する企業もあります。
仮想通貨を大量に保有する代表的な海外上場企業
実際に、どのような企業が仮想通貨を保有しているのでしょうか。ここでは、特にビットコインの保有量が多いことで知られる代表的な企業を紹介します。
マイクロストラテジー (MicroStrategy)
米国のソフトウェア企業ですが、上場企業として世界で最も多くのビットコインを保有していることで、その名を馳せています。同社のCEOであるマイケル・セイラー氏の強力なリーダーシップのもと、2020年から会社の主要な財務戦略として、積極的にビットコインを買い増し続けています。その動向は、市場参加者から常に注視されています。
ビットコインマイニング企業
- 代表例:マラソン・デジタル (Marathon Digital)、ライオット・プラットフォームズ (Riot Platforms)など
これらの企業は、ビットコインのマイニング(採掘)を事業の核としています。彼らは、事業経費を支払った後の採掘したビットコインを、すぐに売却せずに企業の資産としてバランスシートに計上(HODL戦略)することがあります。そのため、自然と大量のビットコインを保有することになります。
テスラ (Tesla)
電気自動車メーカーのテスラは、2021年にCEOのイーロン・マスク氏の主導で、15億ドル相当のビットコインを購入したことを発表し、世界に衝撃を与えました。一時はテスラ車の決済にビットコインを受け入れるなど、その動向は市場に大きな影響を与えましたが、その後、保有分の一部を売却しています。
コインベース (Coinbase)
米国の最大手仮想通貨取引所であるコインベースは、顧客から預かっている資産とは別に、自社の企業資産としても仮想通貨を保有しています。これは、自社の事業領域へのコミットメントを示す意味合いも持ちます。
企業の仮想通貨保有が市場に与える影響
企業の動向は、仮想通貨市場全体に大きな影響を及ぼします。
- ポジティブな影響:
信頼性の高い上場企業が資産として保有することで、仮想通貨の社会的な信用度が向上し、他の機関投資家が市場に参入しやすくなる「呼び水」のような効果があります。 - ネガティブな影響:
マイクロストラテジーのような巨大な保有者が、もし何らかの理由で保有するビットコインを大量に売却するようなことがあれば、市場に深刻な売り圧力をもたらし、価格が暴落するリスクも指摘されています。
保有企業に株式投資する際のメリット・デメリット
これらの企業は、米国の株式市場などに上場しているため、株式投資という形で間接的に仮想通貨市場に関わることも可能です。
- メリット:
証券会社の口座を通じて、株式と同じように手軽に投資できます。仮想通貨の直接保有に伴う、秘密鍵の管理といったセキュリティリスクを負う必要がありません。 - デメリット:
仮想通貨の価格が上昇しても、その企業の経営状況や株式市場全体の地合いが悪ければ、株価が上がるとは限りません。また、個別企業の経営リスクも考慮する必要があります。
まとめ:企業の動向は、仮想通貨の未来を占う指標
この記事では、仮想通貨を保有する企業について、その理由と代表例を解説しました。
- 企業が仮想通貨を保有する背景には、インフレヘッジや戦略的投資といった明確な目的がある。
- マイクロストラテジーや、大手のマイニング企業が、特に多くのビットコインを保有していることで知られる。
- 企業の参入は、仮想通貨の信用度を高める一方で、その売却動向が市場を左右するリスクも内包している。
- これらの企業の株式に投資することで、間接的に仮想通貨市場に関わることも可能。
かつては考えられなかった「上場企業による仮想通貨の保有」という動きは、仮想通貨が単なる投機の対象から、長期的な価値を持つ「新しい資産クラス」へと、その地位を確立しつつあることの力強い証左と言えるでしょう。